本当は毎日楽しい

 

「いつもあなたばっかり楽しそうでずるい」

更衣室のロッカーでムシャクシャした同期から言われた言葉だった。そのときわたしはニッコニコで、なぜなら仕事終わりに友人とご飯を食べる約束をしていたからだ。

「趣味も多くて友達と遊ぶだけでそんなにニコニコできるなんて羨ましい。同じ趣味の友達なの?そりゃ楽しいか。あーあ、私もなんか趣味欲しいよ。」

嫌味じゃない。彼女は素直で可愛くて真面目で人生をしっかりやっている人だ。だからこうやってわたしに言ってくるし、私も素直にこう返す。じゃあ一緒にアイドル好きになろうよ、と。

 

最近アイドルにハマった。面白くてかっこよくて踊れて歌えて万能と言える人間が私は大好きだ。その話をしては良かったねえと言ってくれる彼女が、お団子だった髪を振り乱して言う。あなたばかり楽しそうでずるいと。

じゃあ一緒にアイドル好きになる?それはいい。そうだよね〜。もうほんと疲れたー。このやりとりでこの件は終わり。彼女は会いたくない人と会う約束があってコテで髪を巻く。顔も可愛くて髪の毛も巻けて顔が小さくて歯並びが良くて可愛くて笑顔がめちゃくちゃに可愛い。いいなぁと思う。

 

私は楽しくないと死んでしまう。毎日笑えないと死んでしまう。嫌なことがあったり落ち込んだ際にそれから逃げたくてコンテンツへ駆け込む。きっかけはなんでもいい。適当に流した音楽、適当に選んだ動画、適当に買った漫画。それらはするすると私の目から耳から脳へ届きキラキラと輝く。元々輝いていた彼らがもっと綺麗に見える。素敵、この人ずっと笑ってる。口角が上がってると人ってこんなに可愛いんだ。身体が柔らかい。ダンスが上手。キメるところはきちんとキメられるのに普段のキャラクターはボケボケなのか。大好きだ、元気が出るから。気づくと私も笑っていて、家族がキモ、と吐き捨てる。そんなのどうでもいい。楽しい、やはり、コンテンツを好きになることも、人を好きになることも。

 

私は毎日楽しくないと生きていけないんだよと言ったら、あたしだってそうだもんとむくれた彼女が言った。じゃあ今日の夜ご飯は美味しいもの食べなよ。お金ないもん。私この前白菜使ってお好み焼き作ったら美味しかったよ。白菜家にないもん。買って帰る元気ある?ないよそんなのー。じゃあウチにあるすぐ食べれるもの食べて早く寝なね。わかったぁ。こんな会話しかしない同期と一緒にいるのは楽しい。職場の同期というのは友人と呼べるか呼ばないかのギリギリのラインだ。だから友達って言われたら嬉しいし、実際私は素直な彼女が大好きだ。私は彼女を可愛いと思うとそのまま可愛いって言ってしまう。そんなこと言ってくれんのあなただけだよ。ニコって笑うその顔が好き。わたしは彼女が大好きなので、実は毎日職場のロッカーで着替えるのが嬉しいし楽しい。楽しいよ、何でもかんでも。あなたとロッカーで5秒話すだけでも楽しいよ。そんなあなたが羨ましい。私もあなたが羨ましい。毎日本当はとっても楽しい。楽しくしないと死んでしまうから。楽しくない日なんか本当は1日もない。だからわたしは生きているし、仕事の前日の夜だって本当はそんなに嫌じゃない。そんな毎日がずっと続けばいい、じゃなくて、続けなきゃいけないのがわたしの人生だ。滑稽でしょ必死なとこが。そんなの私だって。あー、泣きそうになんないでよ。この話終わり。